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2004/09/20

経営に終わりはない

1.第一級の経営書
 1986年11月文藝春秋社から藤沢武夫著「経営に終わりはない」が出版されました。藤沢武夫は本田宗一郎と二人三脚で創業し今日のホンダの基盤を作り上げた方ですが、本田宗一郎を表に立てて、自らは裏方に徹して、マスコミにも出ず、講演も、書くこともほとんどなかったのです。この本は著者が引退から十四年経ち、「本田-藤沢」の創業理念と、二人三脚で作り上げてきたホンダの経営のタテ糸を語ったものです。ときあたかもプラザ合意の翌年、日本経済は、未曾有の円高で呻吟し、方向感を失っていたときでもあります。太平洋戦争の廃墟から立ち直った日本経済はそれから四十年、、ジャパンアズナンバーワン、世界一の経済大国ともてはやされたましたが、1985年のプラザ合意で鉄槌を下されて、目にはみえませんが再び廃墟と化したのです。日本のビジネスマンにいまこそ原点に帰れと著者が贈ってくれたエールだったのかもしれません。何度読み返しても涙がにじみでる本です。
2.夢→念→仮説→検証
 企業は大きな矛盾を抱えて誕生します。生きとしいけるものの命は有限なのに、無限の命を求めていく宿命を負っています。起業しても幼児死亡率が高く1/3は三年以内、2/3は十年以内に死を迎え、首尾よく成長軌道に乗った企業も創業者の命の衰えと共に”創業の理念”も老いていきます。企業の技術、商品、サービスは経営理念を源泉としているのですから、温泉騒動は他人事ではなく見た目こそ違ってもそのまま企業の問題なのです。
 だれが言い出したのか「P→D→C→A」をマネジメントサイクルと言いますが、私は常々それが間違いのはじまりだといってきました。それは管理(コントロール)のサイクルであり、マネジメント(経営)サイクルというからには「夢→念→仮説」の第一のエンジンサイクルと検証の第二のエンジンサイクルが必要です。この第二のエンジンサイクルが「P→D→C→A」なのです。企業の経年変化で第一のエンジンサイクルが点火しなくなり第二のエンジンサイクルのみで回るようになって衰退へ道をたどっていきます。第一のエンジンサイクルが経営理念なのです。ホンダが1954年に「日本一のオートバイメーカーになるぞ!」「マン島のT・Tレースに出場する」と宣言した話は多くの方が知るところですが、宣言したまさにそのとき、手形が落ちる落ちないの危機にあったことを知っている方は少ないのです。けっして現実から目をそらすためではなかったことは、五年後に優勝し、七年後には一位から五位まで独占したことで検証されたのです。
3.万物流転の法則から逃れる
 企業といえども生々流転、「生あるものはすべて滅する」という大自然の法則の下に支配されています。技術の天才本田宗一郎の遺伝子を次代に伝えない限り、ホンダは本田宗一郎と共に衰退します。ホンダにとって空冷から水冷低公害エンジンCVCCの開発は大自然の法則から免れた瞬間でした。
4.自灯明
 この本を貫いているのは「たいまつは自分で持て」「自灯明」です。資金調達で「銀行が貸してくれない」ではなく、借りられる条件を「自分で整える」こと、「売れない」「売ってくれない」ではなく「売れる状態を自らつくる」こと、自分自身で他人を頼りにしないで意思決定すること、「自分の足元は自分で照らせ」ということです。私のようにその自信の無いものは「法灯明」、法の灯火で足元を照らして歩く、この本は多くのビジネスマンにとって「自灯明」が灯るまで、足元を照らしてくれる経典になるでしょう。
5.別れ
 ひととひとの出会い、男と女、夫婦、親と子、友との出会い、すべての出会いに別れがあります。藤沢武夫と本田宗一郎との出会いと別れは友と友涙の滲む「美しい出会い」と「幸せな別れ」です。私にとってはまさに「法灯明」の出会いと別れです。引退のときの二人の会話です。
   本田「二人いっしょだよ、おれもだよ」
   本田「ここらでいいことにするか」
   藤沢「そうしましょう」
   本田「幸せだったな」
   藤沢「本当に幸福でした。心からお礼をいいます」
   本田「おれも礼ををいうよ、良い人生だったな」
6.棲み分け
 読み終えても、トヨタ、ニッサン、GMといったライバルメーカーの名前はいっさい出てきません。藤沢武夫は万物流転の法則を乗り越える進化を、競争の中に求めてはいなかったのです。創業のときから、主体的に方向性をもって二輪車から四輪車へ進化し、日本からアメリカへと遷移していった姿は今西錦司の棲み分け進化論そのもの、そして創業者の遺伝子を継承した次代のひとびとは、ホンダをさらに進化させていくことでしょう。あとがきは次のようにむすんでいます。「二代目、三代目・・・・・・彼らが仕事をしやすいように、経営のタテ糸をこわさず伝えるということは、創業者のつとめなんですね。次代のひとが仕事がしやすいように配慮しなければならないのです。このようにして”たいまつの火”が次から次へと受け継がれてゆくことによって、はじめて本田技研は万物流転のさだめを免れることができる。」
7.経営とは
 広辞苑をひも解き「経営とは?」と問うと「力を尽くして物事を営む」と答えが返ってきます。この答えに従うならば「経営に終わりはない」この本は、「自灯明」に進化するまでの「法灯明」として個人、家庭、会社を問わず人生の様々な場面で足元を照らしてくれます。

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コメント

「自灯明」と「法灯明」は一生のヤジロベエなのでしょう。「法」が照らす道に従うのも大事ですね。大自然の法則、いのちの道、迷いながらも、曲がりくねった一本の道。坂の上の雲の山本権兵衛のリーダーシップもよかったですね。

投稿: 懐中電灯 | 2004/09/20 11:47

いつも楽しみにして読んでますよ。先生が私達に伝えたいというお気持ちが強烈に伝わりました。トヨタのCMでわありませんが『変わらないように変わらなきゃ』ってコトですよね。
 私の場合を言いますと今までの経験というか過去が邪魔する時があります。『自灯明』いいですね。

投稿: 山本権兵衛に憧れて | 2004/09/20 07:33

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» 明賀さんからいただいた「経営に終わりはない」 [思いつくまま-足助から-]
二週間ほど前に、下記ページで懐中電灯さんのブログ「ともだちの友達はともだちだ!」 [続きを読む]

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