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2004/11/06

おしんの「しん」は革新の「新」

 中小企業経営者の集まりで、「景気が良くなったといわれているのに、ちっとも回ってこないのはなぜか?」という問いをいただきました。今は昔、景気は飛行機の離着陸に喩えられていました。景気が良くなる離陸のときは、機首に喩えられる大企業、都会の景気が良くなって、最後に尾翼の中小企業、地方の景気が回復します。景気が悪くなる着陸のときは、まず後輪が着地して最後に前輪が着地します。以前は早い遅いはあっても辛抱してれば回ってきましたがいまは、辛抱していても回ってこないのです。大企業も史上最高利益、とかバブル後最高利益とか新聞のタイトルが踊っている企業は、リストラを完了させた企業と長年新技術、新商品にこだわってきた企業であって、辛抱して待っていた企業ではないのです。問いをいただいてしばらくは、どんな答えを期待しているのか真意が良く理解できなかったのですが、二十年前に拙著「戦略経営の実践」に書いたり、おしゃべりしてたお話を思い出してお話しました。
 私の答えはいたってシンプルです。「もうしばらく我慢して」とか「頑張りましょうもうすぐ夜明けです」といった答えを期待している方には、期待する答えにはならないのですが、昔のように辛抱して待っていても回ってこないのです。「待ち人来たらず」です。 「おしん」が大ヒットしていた、二十年以上前から私の答えはひとつしかありません。「おしんの『しん』は革新の『新』」です。おしんをみる度に、日本人はテレビや居間の調度品、鏡の中の自分を眺めながら「おれも昔は貧乏だったなあ!」「良く辛抱したもんだ!」「よくここまできたもんだ!」と昔を懐かしんでいました。アジア、アフリカ世界中で大ヒットしましたが、貧しい低開発国の人々は、「日本も昔は貧乏だったんだ」「それなら俺たちだって辛抱すれば」と思いながら見ていたのでしょう。キーワードは「おしんの『しん』は辛抱の『辛』」でした。そもそもそれが間違いだったのです。「時の流れ」に身を投じないで、岸にしがみついて、辛抱していても流れに取り残されるばかり,そのうちに力尽きて溺れてしまうのが落ちです。
 おしんは辛抱して成功したのではないのです。もちろん人一倍の努力をしましたが、それは当たり前、努力は当然でそれはおしんの成功の原因ではありません。おしんは困難に遭っても、過去に成功したことを繰り返したことはありません。16歳で山形から逃げるようにして上京したおしんは髪結いの修行に入ります。普通は12~13歳で修行に入り十年の修行で独立するのですから16歳では遅すぎたのですが、おしんは19歳三年で独立しました。持ち前の努力と辛抱で十年の修行を三年に縮めたわけではないのです。当時流行りはじめの洋髪を結って独立した最初の月に、当時希少価値だった大卒の初任給25円の二倍の50円を稼いでしまいます。当時一人前の日本髪の技術者は流行りはじめのあやしげな洋髪を結おうとしなかったのですが、伝統的な日本髪の技術を新しい流行に応用したおしんのイノベーションが成功の要因です。ぼんぼんの夫が経営する羅紗屋が経営不振に落ちいったときも、彼女は得意の髪結いに戻らないで、当時流行りはじめた子供服の既製服を製造販売して大当たりします。その後、嫁いびりに耐えられず独立、伊勢で魚の行商から身を起こしお店を持つまでに成功し、戦後はスーパーへと変身していきます。
このおしんの自己革新が成功の秘訣であり、チャレンジとは時の流れに流されるのではなく、流れに乗ることです。 実は古来より舶来の知識技術を取り入れて自分たちに合うように磨き上げてきた、この自己革新能力こそ日本人の真骨頂だったのではないでしょうか。個人、中小企業など弱者こそ自己革新が生長(ながいき)の原動力であって、辛抱、努力は必要条件ではあっても十分条件ではないことをおしんの物語から学びたいものです。

 

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コメント

最近はおしんのドラマすら知らない世代が多くなって、例えばなしも、種切れしそうです。昨日「サル草履を持て・・・」の話をしましたが、太閤記の有名なくだりも知らないひとがいます。世代間のギャップを感じるこのごろです

投稿: 懐中電灯 | 2004/11/10 13:32

「おしんのしんは 新 」

 これは見事な解説です
ほんと これこそ説得あるお話です。

 中小企業でも変身したところのみが、勝組みですね。
変身してないところでは、利益もなく減退のみということが
よくわかります。

  とよとよ 

投稿: とよとよ | 2004/11/07 17:18

凄いですね。次は司馬遼太郎「峠」かもしれませんね。僕も「乱読のすすめ」に紹介したいと、八年振りに読み直しをしたところです。あらためて山田方谷の人間としての凄みを感じた次第です。これだけの人物が静かに眠ってるとうことは、生前から自らの功績を常に捨ててきた証なのでしょう。ホンダの藤沢武夫にも通じるところがありますね。近々このブログで紹介します。
 

投稿: 懐中電灯 | 2004/11/06 11:18

以前先生に教えて戴いた『炎の陽明学』もう少しで読み終わります。山田方谷は、先の先をよんで手を打つその時は詳細な調査をしたうえでの行動と、1人の人間がここまでできるのだろうか?と疑問に思うほどの人物です。
革新、今だからこそとは、言いませんが一度読むべき本ですね。良い本を紹介して頂きありがとうございました。

投稿: 山本権兵衛に憧れて | 2004/11/06 07:45

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