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2007/06/13

岩井克人著「貨幣論」を読む(6)金融経済は紙切れが先導する

<金融経済社会は「純粋紙切れ」が先導する社会>
「金融経済化が進んでいる」というとそれだけで多くのひとは毛嫌いします。今回連続で書きましたし、過去にも再三当ブログに書いてきた理由は、好き嫌いの前に怒涛のような大きな純粋紙切れマネーの奔流を知ったうえで、自分の生活を考えていただきたいからです。ただ毛嫌いしているだけでは、その奔流に飲み込まれてしまいます。流れをよく見て、近づき過ぎず、離れ過ぎず距離を保っていくことが大事だと思っています。
 ニクソン大統領が1971年、米ドルと金とのリンクを断ち切った?(アメリカは停止と表現しています)ときに、貨幣はもっとも純粋な貨幣としての機能を露わにしました。著者はマルクスの次の言葉、「金は価値をもつから流通するのに、紙幣は流通するから価値をもつのである」を引き出しました。究極の貨幣が誕生したのです。人々が受け取るという信用によってのみ存在するのです。世界経済の究極の危機は、マルクスが心配したモノの供給過剰による恐慌ではなく、誰も米ドルを受け取らなくなるという貨幣の信用失墜という危機なのです。そのときが資本主義経済の根幹を揺るがす究極の危機といえるでしょう。

 日本は通貨戦争に敗れ、1986年第二の敗戦を迎えました。しかし米ドルの信用も傷つき、先進国の国民はいつ暴落するのかと恐れをいだくようになっていきました。それでもアメリカの双子の赤字は止まりません。
 ところが1989年ソ連邦が解体し翌年にはベルリンの壁が崩壊しました。東ヨーロッパやロシアの資本主義化がはじまったのです。時を同じくして中国も一国二制度といいながら、資本主義への道を歩き出しています。世界中から社会主義政権が消滅し、資本主義に統一されていく過程がグローバル化、フラット化の流れです。それはそのまま米ドルを受け取る国民が急激に増加することということでもあります。
 BRICsをはじめ次々と新興国家が経済発展をはじめています。その始動はアメリカからの資本の流入です。各国の実物経済が伸びはじめて、資本の流入が始まったようにみえますが、そうではなくて、先に純粋紙切れ米ドルが投下されてそれを梃子に、経済発展が始まったと考えたほうがいいようです。BRICsからベトナム、タイ、ラオスとアジアの国々へ米ドルが流れていく間は、危機はこないということですから、社会主義の崩壊が米ドルの寿命を延ばし、資本主義経済の危機を遠ざけたことになります。
 一方でヨーロッパでは各国が国家主権の一部を放棄して、ユーロを単一通貨として信任し、周辺国を巻き込んでユーロ経済圏を作りつつあります。ロシア、中国など新興国家が外貨準備の一部をユーロで保有するようになっていきます。米ドルが信認を失うXディまでに第二の基軸通貨として育っていけば、そのとき起きるであろう資本主義の危機も和らぐことでしょう。
 アメリカ自身がそのXディまでに、現在の米ドルに代わる新しい通貨を作るのではないかともいわれています。もしアメリカが基軸通貨として新しい通貨を作ることに成功すれば、外貨準備の大部分を米国債で保有する、日本が第三の敗戦を味わうことになります。
 そしてそのとき、広島、長崎の被爆体験、東京はじめ日本の主要都市大空襲の体験、現在のイラク戦争の体験と同じように、いかなる戦争も最も被害を受けるのは一般庶民です。
 (5)にも書きましたが、米ドル、円に対してユーロがかなり高くなっています。しかしユーロ当局もあまり問題にしていないようです。ユーロ高を容認しているのでしょう。円はその米ドルに対しても円安になっています。購買力平価からみると現在の一米ドル=122円はプラザ合意直前と同じ水準の円安です。米ドルとの関係ではいつ円高に振れてもおかしくはないのです。それでもアメリカもあまりこの円高をあまり問題にしていません。
 一つの要因は、日本の経済がかっての強さを失っている証しでしょう。もう一つの要因は日本の円預金が海外(日本以外)へと飛び出していっていることにあります。
 今後も日本国内の経済は成長が見込めないので、円資金を国内に留めておいても金利を稼ぐことができないという理由があげられていますが、本音は長々と書いてきたように、円資産は米ドルと一蓮托生だからです。アメリカと心中するのではなくて、純粋紙切れ(神)と心中するのですから、心中したくない人々は、この4,5年前から、恐る恐る一部を海外へ移し始めましたが、徐々に自信を持ってきています。
 海外の企業に投資する投資信託へ預金を移し始めています。投資信託や海外企業株式への投資で値上がりや、金利ばかりが強調され、「儲け」ばかり強調されていますが、、長いスパンでみて、米ドル(円を含む)との心中を避けるというコンサバティブな側面から海外投資を見ておくことも必要です。
 2007年6月4日の日経新聞夕刊のトップでも日本人の「投資信託を通じた外貨建て債権投資で、『ドル離れ』が鮮明になってきた。」と報じています。欧州通貨(ユーロ、ポンド)の割合は40%台に上昇し、米ドルは30%台に下落しています。日本人の富裕層はすでにヨーロッパへの分散をはじめています。
 一方輸出企業もすでに国境を越え、ワールドワイドな企業になっていますから、稼いだお金を国内に再投資したり、社員の賃金を上げるより、成長が期待できる、アジア、ヨーロッパへ再投資していきます。ワールドワイドな視点で、国内も海外も同じ物差しで計り、成長を求めていくことこそ、グローバル化、フラット化なのです。
  アメリカがグローバル化を標榜して、アジア,インドへと米ドルを注入して新興国の経済成長を促進することで、果実を得ようとしているのですが、EUもヨーロッパで東欧諸国や、スペイン、ポルトガル、ギリシャといったヨーロッパの経済成長の遅れた国々を、EU域内へ取り込みユーロ圏を形成しているのもヨーロッパのグローバル化なのです。一方でアメリカからの自立を図りながら、一方でグローバル化が進行しています。
 さらに想像を逞しくするなら、フランスのサルコジ政権もドイツのメルケル政権も共に規制撤廃、競争促進政権です。アメリカの金融資本そのものが、すでにヨーロッパへの移動をヒソヒソと進めているのように見えます。

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コメント

コメントありがとうございます
<会長さん>
日本、アメリカは国内は成長機会が限られてきています。それが資本移動によるフラット化です。国内は消費税増税、法人税率引き下げこれも「下流食い」の一つです。より弱いものが強いものに奪われていく時代です。ぼやぼやしている暇はありませんね。
 

投稿: 懐中電灯→会長さん | 2007/06/20 09:23

このまま資本主義に統一されていく過程が世界基準となりグローバル化、フラット化が進んで、
日本の賃金もそのようになっていけば国内においての格差が広がっていくように思われるんですがどうなんでしょうか?

投稿: 会長 | 2007/06/18 22:16

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