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2008/08/29

五輪銅メダルに見る事業承継の大切さ(3)

7.      事業承継はバトンとボールを分けて

    「経営に終わりはない」と、永遠を求める経営と、有限である経営者の命、この矛盾の上に企業経営は成り立っている。この矛盾を超克しなければ、この「経営に終わりはない」という原理原則を貫くことはできない。
 北京五輪の男子400㍍リレーの銅メダルはバトンタッチの妙によって獲得したものだ。四名の選手はきっとバトンタッチの技術も練習によって磨いたに違いない。企業も日々の経営の中で、目に見えるものづくり、売上げ、利益だけでなく、目に見える日々の活動の中で、目に見えない後継者づくり、ひとづくりが伴っていくことが、永遠の命の灯火を燃やし続けていくことになるであろう。これは一朝一夕にはいかない。
 経営者は折角築いたものを無にしない、誤り無き事業承継のために、北京五輪の銅メダルを借りて胸に掛けて時間をかけて、バトンとボールを分けて継承する仕組みつくりを心がけたい。

8.      終わりにーS社では

    筆者は足掛け三十年「経営とは何か」「企業経営のための会計とは」をテーマに、後継者研修や管理職研修に携わってきた。その中で、何人か起業を志す元気のいい方々と出会い、その縁でいくばくかの出資も頼まれた。その中の一社、S社を実例としてご紹介する。
 三十年前ある企業の管理職研修で出会ったS氏、筆者より十歳ほど若い。起業にあたって筆者をはじめ、趣旨に賛同したS氏の縁者が出資に応じた。自称企業財務に強い筆者は、S氏には、あなたの想い(目に見えないもの)に賛同して出資するのだから、
「配当はしなくていい」
「会社は大きくするな」
「自由であれ」
「経営者として安全のために役員報酬を増やして資産を作れ」
と申し上げてきた。創業期の苦労はあったものの、二十年ほど順調に事業も伸び、社員も50名を擁するほどに成長した。しかし真面目でストイックなS氏は、己の役員報酬を抑え、コストダウンに励み、せっせと利益を計上し法人税を払い、配当をしてきた。ここ十年の伸び悩みはあるものの、「赤字は悪だ!」と、赤字は決して出さない。すると貸借対照表はどうなるか?
 貸借対照表の右側(貸方)は無借金だから、第三者持分はゼロに近い、左側の資産の源泉は株主資本(資本金と内部留保)のみだ。その株主資本はすべて資本金を提供した出資者の持分である。S氏本人の持分は半分強、残りは当時、S氏の想いに賛同した出資者の持分になる。出資額の40倍を超える内部留保になっている。
 その縁者も三十年経つと、次々と第一線を離れ、手元不如意になる人も出てくるし、老後の年金の足し前も欲しくなる。創業当時の想いはあるものの、買取りを希望する方が出てくるのもムリからぬことだ。なにしろ既に三十年になろうとしているのだから。
 近年自社株の保有が認められている。社長である、S氏以外の持分をすべて会社で引き取ると現金の流出は数億円になるだろう。貸借対照表では左側(借方)の現金(目に見える)が減り、右側(貸方)の株主持分(目に見えない)が減る。現金が減ると運転資金に影響が出てくるから、現金の減った分を借入金(第三者持分)で補うことになる。
 三十年内部留保に励んだ社員は、相変わらずその会社に家族も含めて命を託している。その命を託している社員の持分はゼロなのだ。企業の永遠の命を紡ぐための現金は、株主の権利として持ち出されてしまう。株式市場に上場した企業では、株主持分は、株主が変わることで維持されていくが、未上場の企業では、現金が直接流出したり、借入金に振り替えられることになる。
 S氏の命だって有限だ。S氏の持分を、S社に関係ないひとが、ボールとして相続するならば、貸借対照表は右側(貸方)は無になってしまう。右側が無では、表裏一体の左側(借方)の資産は存在できない。企業は解体されることになってしまい企業の命も絶たれてしまう。
 バトンを手渡すにはボールも一緒に渡すことが最適だが、ボールが大きければ大きいほど、バトンだけ受け継ぐ経営者も相続人の欲を消し去ることはできない。その矛盾を避けると、必然的に世襲となる。世襲する後継者が経営者として育っていれば、問題はないがリレー走者に相応しい実力がなければ、「経営に終わりはない」は望めなくなる。
 S氏は創業時から世襲はしないと明言してきたし、まだ五十代半ば、ストイックな方だから、きっと社員の中から後継者を選ぶことだろう。バトンを託す後継者つくりと、株主持分をバトン(創業の想い)と共に託す仕組みも作りあげねばならない。作りあげねば、多くの中小企業が今抱えている問題が老いた自分の身に迫ってくる。「経営に終わりはない」S氏の残りの十年の課題は大きい。「色即是空」「空即是色」だ。

(注)昨秋ブログに下記タイトルで書きましたが、貸借対照表も生きています。
経営者は日々の営みの中で、次代のための構造をつくっていかなければなりませんね。

<複式簿記に秘められた色即是空(1)>

http://net-ksk.cocolog-nifty.com/keiei/2007/10/post_f64d.html

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