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2011/02/04

お奨め「価格戦争は暴走する」エレン・ラベル・シェル著

書名  「価格戦争は暴走する」
著者  エレン・ラベル・シェル
出版社 筑摩書房
原題は「CHEAP]-The High Cost of Discount  Culture-
 原題どおり、「安売り文化」は人間社会ひいては地球環境にとっていかにコストが高くつくかということをウォルマート、イケア、アウトレットモールの仕掛け等々を事例にしながら解き明かしています。
序章「悪貨は良貨を駆逐する」からはじまります。そして訳者あとがきには「シェルは、・・・・グレシャムの法則をテーゼに掲げ、安売り(値引き)が市場を支配することによって、高品質の商品や正価販売の良心的な業者が居場所をなくしていく構造を、丹念な取材と鋭い分析で浮かび上がらせる。」「安価というこの悪貨は、不幸(苦痛、貧しさ)を再配分するのに最も適した通貨であるとの思いを禁じえない。エレン・ラベル・シェルの発するメッセージは明晰で、かつ重い」と結んでいます。

 菅直人総理は己の人生における活動の意義、そのすべてを帳消しにして、TTPへ、そして消費税増税に向けて突っ走っています。昨年六月の政治家菅直人の演説に、変節という言葉の凄まじい形相をテレビ画面を通して見せつけられました。あのとき政治家菅直人に、民主党に、なにがあったのだろうか?。
 アメリカの低価格な農産物の輸入が、日本の農業に何をもたらすのか?安全、安心といった眼に見えないものを失った農産物に日本人の未来を託してよいのだろうか?今でも増え続ける耕作放棄地、一度荒廃した農地は元には戻らない。
 菅直人総理までも”日本は輸出立国”という洗脳の下、「第三の開国による再成長」を掲げ、自由貿易を推し進めています。しかし2011年1月22日の日経新聞でも「日本、家電の『純輸入国』に」と報じています。評論家が「日本のものづくり」といっている間にも、庶民が日本企業の製品、メイドインジャパンと思っている家電も、すでに海外生産への移行は完了しているのです。
 本来自由な競争に晒してはいけない農産物をも低価格競争に晒してしまう政治家、官僚、そして経済界のエリートの方々、ルビコン川を越えたカエサルは馬上から「ここを越えれば。人間世界の悲惨、越えなければ、わが破滅」と叫んだといいます。TTP目前、賛成するひとも反対するひとも是非立ち止まって、賛否は、この本を手にしてからにしませんか?
 本書、第九章「双頭の竜-アメリカと中国の結託ー」著者によると、搾取労働を幾ばくか緩和するために労働者保護の法律を定めた中国政府に対して、表向き人権を標榜し中国を非難するアメリカが裏では、この法律の撤回を求めたといいます。圧力を掛けているのは、マイクロソフト、ウオルマート、デル、ナイキ等々1300もの企業を代表する上海米国商工会議所です。中国の低賃金がアメリカ企業にとっても都合がいいのです。低価格の輸入品を国内で販売して儲ける機会が続くですから。アメリカ国内の労働者の雇用はどうでもいいのです。
 アメリカ政府は、中国政府が自国通貨元を米ドルにペッグしていることを、声高に非難し表向き元高圧力をかけています。しかし中国の製品を安く輸入するには元は安いにこしたことはないのです。人権も、元安批判も、表向きのこと、裏ではしっかり抱き合っている恋人同士というのが真相のようです。中国政府がボーイングを大量に買うことで帳消しなのでしょう。過去の日本もボーイングを買いました。JALはその犠牲者という側面もあるのでしょう。
 悲しいかな菅直人政権はカエサルとは違って、変節したままルビコン川を越え、わが破滅を招くのでしょう。
  <価格破壊は命取り>
Photo_2 我田引水になりますが、長年、図「価格破壊は命取り」を掲げ、安売りの行き着く先を説いてきました。価格(P)を下げても、変動費(vP)は下がらない、価格(P)を下げた金額がもろに粗利単価(mP)の低下、販売数量(Q)を掛けた粗利益総額(mPQ)がそのまま利益(G)減となってしまいます。
 ウオルマート、イケアといったバイイングパワーを保持する強者が、仕入業者、下請け業者の納入価格を買い叩くいて、自社の変動費(vPQ)を引き下げて安売りすると、仕入業者、下請け業者は利益(G)減に堪えかねて固定費(F)なかんずく人件費の引下げに走らざるをえなくなります。
                               <少し高いけどいいよ>                                              Photo_3        弱い者へ弱いものへ、負の連鎖が止まりません。その上強者自身が自社の社員を厚遇するならまだしも、低価格を理由に低賃金労働を推進するのですから、働く者は極一部を残して、皆低賃金労働に呻吟することになります。当然賃金の低下は地域社会という人間社会の疲弊を招きます。グローバリゼーションの世界、負の連鎖は地球の隅々まで広がっていきます。まさに人間世界の悲惨です。
 この負の連鎖から逃れる秘策は只一つ、「あそこ、少し高いけどいいよ!」と口コミされるようになることです。秘策でもなんでもない、日本人が生き残る道はただ一つしか残されていません。己の商品、己のサービス、己の労働力の「高付加価値化」という当たり前の結論に落ち着きます。近道はないのです。
 この本はその覚悟を固めるためにも、お奨めの一冊です。

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コメント

コメントありがとうございます。
>安売りで戦うのは企業として悪しき慣習
 経営の根本から変える以外に近道はないのでしょうね。お客様にとって価格差は満足の一部」と信じる以外にないのだと思います。
 山歩きをしていますが、道に迷ったときは、下ってはいけないのです。谷は何処へ回りこんでいくかわからないからです。迷ったら高いところへ上がる、そうすると周囲が見えてきます。尾根筋へ出ると新しい隣の山が見えてきます。
 経営も安い、安いと下ったら地獄です。

投稿: 懐中電灯→ほんださんへ | 2012/04/01 20:59

はじめまして。
私も本書を読み幣ブログにて書評しております。
貴書評の奥深さと比べると、人生経験も勉強経験も浅はかなものですが、ご覧いただけますと幸いです。

安売りで戦うのは企業として悪しき慣習、といえどもコモディティ化しパイオニアであっても陳腐化しかねない昨今ではなかなか価格ではなく価値で営業する、といっても厳しいものはあります。。

投稿: ほんだ | 2012/03/30 21:14

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