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2012/05/25

M・サンデル著「それをお金で買いますか」

書   名 「それをお金で買いますか」-市場原理主義の限界-
著  者 マイケル・サンデル
出版社  早川書房
  原題は「What Money Can’t Buy」つまり「お金で買えないもの」です。これをどうして「それをお金で買いますか」と変えたのだろうか?「売っているものならなんでも買っていいのですか?」と買い手に問いかけているようにも思えます。それなら「売れるものはなんでも商品にしていいのですか」と売り手にも問わなければならないでしょう。
 親しい縁者Nさんとの世間話の途中、いつも「最近日本人に糊代がなくなったね」「日本人は不寛容になったね」と嘆く。この本を読んで思った。そう、ひととひとの間、その隙間こそ社会と名付けているものではないかと、この隙間、関係性が糊代だ、今その糊代を市場と名付けて、あたかも実体であるかのように錯覚して、商品化し売買しています。糊代が無くなるのは当たり前です。婚活、離活、就活、育活とうとう終活という商品もできているといいます。今度Nさんと会ったらこの本を話題にしようと思っています。
 マイケル・サンデル教授の白熱教室のお陰で「哲学」という語が使いやすくなりました。ありがたいことだと感謝しています。この本は自由の名のもとに人間生活に関わるあらゆるものが商品化、お金で買えるようになりつつある現在の様相を止めなければいけないとの警告の書です。
 日本が高度成長の坂を登り詰め山頂へあと一歩という、1960年代の後半、日本は米国からエコノミックアニマルと揶揄されていました。多くの我々企業人は「一所懸命働いてどこが悪い!」と反論していました。すっかり死語になっていたと思ったのですが、そうではなくすっかり浸透してしまい日本人自身疑問にも思わなくなっていたのです。

 きっとその傾向と対策が1971年8月15日、後々ニクソンショックと称されるようになる、米ドルの金兌換の停止です。米ドルの純粋紙切れ化です。僕はこれ以後の通貨を浮遊霊と名づけてみました。糸の切れたやっこ凧です。誰よりも先に誰よりも大量に刷ったものが勝ち組になる時代の幕開けです。あらゆるものを紙切れと交換する時代がきたのです。その下ごしらえをした上で、レーガン&サッチャーのコンビで市場原理主義を普く世界に広げていったのです。
 エコノミックアニマルの頭上に大津波のように覆いかぶさってきたのが、市場原理主義またの名を市場至上主義というものです。”すべては自由”の錦旗の下、エコノミックアニマルの日本人も思いもよらない”ものごと”に価格をつけ商品化していきます。
 著者は序章-市場と道徳-でその事例を数々挙げています。
曰く「連邦議会の公聴会にロビイストが出席するための順番取り」
曰く「病人、高齢者の生命保険の売買」
曰く「代理母による出産代行サービス」
曰く「臓器売買」
等々、近未来の日本もこうなるのかと想像すると暗澹たる思いです。かつてホリエモンが「お金で買えないものはない」と嘯いて顰蹙を買いましたが、現実はすでに、かつてお金で買えなかったはずのものがいつの間にか買えるように、深く静かに進行しているのです。一方で格差社会が進行しています。糊代が無くなってしまったら、買うお金を持たないひとは関係性を失い、孤立無援になってしまいます。
 果たしてM・サンデル教授の標榜するコミュニタリアニズムがこの市場至上主義の流れを押しとどめることはできるのだろうか。「できる」と信じたいと念じて本を閉じました。
 
 「お金」には眼に見える「お金」の側面と眼に見えない「資本」という側面があります。正確には名詞ではなく動詞「お金の働き」と「資本の働き」です。この眼には見えない「資本の働き」が浮遊霊として膨張し、あらゆるものに取り憑くのです。この不幽霊に轡をはめることができるのだろうか。この浮遊霊を操るのもひとです。市場も実体ではなく、売るひとと買うひとの関係性です。畢竟「資本を操るひと」「売るひと」「買うひと」それぞれの「意識」「生き方」に轡を嵌める以外にないのでしょう。著者は「市場をあるべき場所にとどめておくことの意味について、公に議論する必要がある」と語っています。この本にその「公に議論する」たたき台の役割を期待したいと念じています。
 
  ひとの意識に轡を嵌めることができるのは宗教、哲学以外にはないと思う僕は、「宗教意識や哲学のルネサンス」を念ずるばかりです。
 是非書店の店頭で、目次を開いてみてください。
 
 

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