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2012/09/19

中国の暴動シーンから「大地」を想う

今回の中国の反日暴動の報道映像を見ているうちに、ふとパール・バックの長編小説「大地」の光景を想い出した。自分でも不思議なことにこれまでの反日暴動の光景では想い出すこともなく、記憶の渕に沈んでいたものだ。旧満州に生まれたことも手伝ってか、中、高校生の頃3~4回は読み直していたはずだが、今となっては長編の切れ切れの断片しか記憶に残っていない、その微かな断片が今蘇る。
 清朝末期から辛亥革命の頃の中国、地方の農村の極貧の農夫王龍の一家の物語。「大地」、「息子たち」、「分裂する家族」と、親、子、孫三代にわたる生命力あふれる物語として三部作で展開する。
 「大地」の主人公は唯々真面目に働き僅かな金を貯める男、王龍(ワン・ルン)。王龍は貯めたお金で大地主から奴隷の女、阿藍(アラン)を買い取って妻とする。僅かな金で買う女、美人のはずもないが。己れの妻さえ金で買わなければならない極貧の階層の男、金で買われることでやっと奴隷から妻という自由を手に入れる虐げられた階層の女の物語だ。
 しかし男は女によって人生が変わるのだから不思議で面白い。阿藍は夫に負けずに真面目な働き者だが、夫より才覚においてはるかに上回っている。それが必死に働くのだから。

貧しい中で、爪に火を灯して、買い集めた僅かな農地も旱魃で放棄せざるをえなくなり、都市へ流れ込む。その夫婦に転機が訪れる、清朝末期の戦乱だ。
 戦乱で街の大富豪の邸宅の塀が破壊されると、街の極貧の民衆は雪崩を打って邸宅を襲う。王龍夫婦も例外ではない。大地主の家の奴隷だった阿藍は、金持ちがいつも疑心暗鬼で自分の宝石類を常に隠していることを知っている、そしてその隠し場所も見当がつく。暴動の中で夫は老人を脅して幾ばくかの銀貨を掴み、妻は才覚で高価な宝石類を手に入れる。
 大地への愛着を捨てられない王龍は、故郷の農村に帰って、没落しつつあったかつての大地主から土地を買い求め、持ち前の努力と妻の才覚で大富豪になっていく。
 第二部はタイトルどおり大富豪になった王龍夫妻の息子たちの物語、息子たちが大商人、軍閥の首領へと成長していく物語だ。王龍の死の枕元で、息子たちが、親が心血を注いだ土地を売る算段をしているのもいかにも人間臭い、さもありなんというストーリー展開を見せる。
 そして第三部は孫たちの物語、孫の一人はアメリカへ留学、帰国して革命家へと成長していく。
 1911年の辛亥革命によって北方騎馬民族の清帝国が滅んで、ようやく中国の大地、中国の極貧の民衆は三千年に渡る専制国家のくびきから開放されるかにみえた。しかし中日戦争を勝ち抜いた末に大地と貧民は、再び共産党一党支配という新たな帝国のくびきに支配されることになっていった。
 鄧小平が初めて「黒猫も白猫も・・・・」の発言をしたのは1960年代初頭だった。それから幾度かの挫折の中から一党支配の中とはいえ、今の改革開放路線を定着させてきた。発言から、未だたった50年の歳月しか経っていない。貧しい民衆に成熟を求めるにはいかにも歳月が足りないのではなかろうか。
 日本列島は島国ゆえか偶然か、列島内にいわゆる専制国家は成立せず、幸いにもモンゴルの支配にも組み込まれなかった。勝手な想像に過ぎないが、日本列島内にも苛斂誅求がなかったわけではないだろうが、世界史的にみれば、ヤワなものだったのではないだろうか。己れ自身も日本列島に生を受けた縁に感謝することしきりだ。
 隣国の反日暴動を、虐げられた民衆の中に溜まった三千年の、苛斂誅求の負のエネルギー放出の過程と捉えて、反日なる語に墨を塗り、パール・バックが「大地」に書き込んだ親・子・孫という三代の循環のサイクルを信じることはできないものだろうか。「大地性」は豊穣の源、母性原理の働く場、アマテラス大神という母性を神話に持つ日本、その母性で暴動を見守ることはできないものだろうか。先に成熟した同じ貧しかった民衆として。
 せめて三代を100年としても、残り50年の歳月がある。50年後なら中国、韓国、日本みな大きく変わっているはずだ。すべては諸行無常、変化して止まないのだから。諸行無常を信じるなら、先送りも戦略として成り立つのではないだろうか。
 
 
 
 

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