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2013/08/26

映画「風立ちぬ」を観て-

「風立ちぬ」は堀辰雄の小説を想像して、といっても微かにしか記憶に残っていないのだがタイトルからは気がすすまなかった、だが宮崎駿監督作品とあっては観ないわけにはいかない。
 映画館を後にして家内と首をかしげることしきりだ。「監督は何をいたいのか?」小川のせせらぎ、紙飛行機を運ぶ風の匂い、映像は相変わらず繊細で美しい、堀越二郎と菜穂子若い二人の愛情も細やかで美しく、その純愛に、枯れたはずの老中の僕も、思わず胸キュン、涙がホロリだ。しかし?しかし?
 この、きな臭い日本の今ここで、宮崎駿フアンのひとりとして、まさか戦争を美化し、ゼロ戦を美化したとは思いたくない自分がいる。 

 テーマがゼロ戦開発という日本人も中国、韓国アジア諸国の数多の人々が辛酸を舐めた戦争に関わるだけに、その違和感は大きい。我々老中世代の多くは、子供の頃名機と信じて、一機や二機プラモデルを作ったことがあるのではないだろうか。僕も仕上がったプラモデルが乾くか乾かないうちに、右手を高々と上げて「ビュ-ン」「ビューン」と部屋中を駆けまわり、急旋回ででグラマンの後ろに回り込み見事に撃ち落として、大人の敗戦の敵討をしたものだ。
 少し大人になって、ゼロ戦はけっして名機ではなく、その高性能は、搭乗員の命と引き換えに手に入れたもの、日本の国家権力の持つ人命軽視の象徴であり、また神風と称する自爆兵器となって多くの有為ある若者の未来を犠牲(いけにえ)として捧げた器になったと知った。その設計者が堀越二郎という名だということはこの映画で初めて知った。
 もちろんフィクションだが、不治の病と知りながら療養所を抜け出し、ゼロ戦設計に多忙を究める主人公堀越二郎に寄り添う菜穂子、菜穂子の命はそのゼロ戦に捧げられている。しかしそのゼロ戦に搭乗し犠牲に捧げられた幾多の若者の命は、その清々しさも、儚さも描かれていない。その犠牲に捧げられた若者にも悲しみに嗚咽する恋人もいたであろう、母親もいたであろうに。
 東電の吉田昌郎氏の葬儀のニュース映像を見た。美しい花々で飾られた祭壇の前の東電の社長の弔辞、安倍首相の弔辞、菅元首相の沈痛な顔が映し出される。3.11原発破壊事故処理に東電本社と、官邸に対峙して戦った戦士の祭壇がそこにある。なにか映画「風立ちぬ」の映画館を出た折の違和感に似た感覚が残る。堀越二郎のゼロ戦も菜穂子の短い命も、吉田昌郎の命もとても美しいのに、その祭壇にはゼロ戦の犠牲の命も、3.11の犠牲の命もそこにはない。
 伝え聞くところによると、2008年福島原発に想定をはるかに超える津波が襲う危険性が指摘されその対策が論じられた際、吉田昌郎氏は東電の設備管理部長としてまさにその設備再考の責任者の任にあり、その津波の可能性を否定して、対策を講じなかったのだという。
 美談として語られる3.11原発破壊事故後の果敢な対応と、津波対策を一蹴した責任の重さは相対的な比較できるものではない。もしあのとき津波対策を打っていたら、3.11の原発破壊事故はなかったかもしれないのだから。
 もし堀越二郎が、吉田昌郎が己の責任として懺悔し心を痛めたとしても、犠牲に供された命は、そして今も放射能汚染に苦難の生活を強いられている人びとの苦難は癒やされることはない。
 宮崎駿監督が得意の美しい映像で描けば描くほど、映像とテーマとのギャップは広がるばかりではないか。
  昨日老中三人でこの話題になった。自分がその立場にあったら、自分も逆らうことができず同じことをやってしまったのではなかろうか。との結論に達した。多分そうなったかもしれない。しかしこの結論こそ、日本人の権力の中枢まで及ぶ結論ではないだろうか。その場の空気に逆らえなかった、日本中が狂気だったと、誰も責任を引き受けない体質だ。
 そうだ。きっと自分も同じ対応をしたのだ。そしてその犠牲の屍を積み上げる。親鸞が人間の深奥に潜む悪、善人だから悪をなさないのではなく、悪の機縁に遇わないから、悪を無なさずにおられるだけだ。日々を生きる中で、縁に遭ってしまったら、犯さずにおれない、己のその弱さ、脆さ、ずるさ、親鸞のいう”煩悩具足の凡夫”という弱さの自覚こそ己をも他者のひとりという”関係性を生きる己”への限りない肉迫への道なのではないだろうか。
 今日21:00NHKで宮崎駿監督の特集が放映される。監督の心のうちが見えるのだろうか。 

 

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