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2014/05/28

今読む「日本文明とは何か」-山折哲雄著ー

書   名 「日本文明とは何か」-「文明の衝突」を回避する手がかりは日本にある-
著  者 山折哲雄
出版社 角川ソフィア文庫
  今、日本は政治、経済、社会の仕組みが当然のことながら、複雑に絡み合いながら大きく揺らいでいます。政治は集団的自衛権を憲法解釈で容認しようとしていますが、その後に起こる軍備拡張の予算の話は隠されて話題にもなりません。それどころか今の経済を浮揚させるのに精一杯、国家負債を積み上げ、未来の税金を先取りしてジャブジャブと使っています。経済界もマスコミも政治家も「成長」「成長」の大合唱です。成長しか、拡大しか、解決策はないと。
 一方で日本列島は少子化による人口減少と高齢化という縮小社会への道は確実なのです。翻って今世界をみるとウクライナ紛争、中東紛争と民族対立、宗教対立収拾のつかない泥沼の様相を呈しています。こんなときには今巷で語られている眼にみえる表層の流れの因果(原因と結果)論的思考を離れて、眼に見えない深層の流れに思いを致して、頭を冷やしてみるのはいかがでしょう。よい智慧が浮かぶかも知れません。浮かばないかもしれませんが、この一冊の文庫本、頭を冷やす一冊にはなると思うのです。  

 宗教哲学のひと山折哲雄は、この本の第一章を1950年代のレヴィ・ストロースとサルトルの論争から説き始めます。サルトルは分析的理性では、「歴史の深部を明らかにすることはできない」、「時間の流れの総体的な意味を把握するうえで『弁証法的理性』こそが有効である」と、レヴィ・ストロースの「分析的理性」を批判する。一方のレヴィ・ストロースは「分析的理性」と「弁証法的理性」とは相補的であり、見かけほど大きくないと反論した。サルトルが一方的に喧嘩を仕掛けたというのが真相のようですが、この論争はレヴィ・ストロースに軍配があがっています。
 ここでレヴィ・ストロースは、歴史を「弱い歴史」と「強い歴史」とに分け、サルトルのいう「弁証法的理性」では「弱い歴史」は明らかにできても、「強い歴史」は明らかにできないというのです。「泣くよウグイス平安京」と暗記したような表面的な因果(原因と結果)論的な歴史は弱い歴史であり表層の流れだ、といい、一方で隠された歴史、隠れた歴史の流れがあり、それを強い歴史と表現しています。XX年XX日と記されてこなかった深層の流れです。
 著者は第五章で「平安時代に350年にわたって続いていた長い『平和』の意味について、戦後の『平和』研究はほとんど知らぬ顔の半兵衛をきめこんでいたということだ。同じように江戸時代の250年の『平和』についても親身な検討を加えてきたようにはみえない」と。そして無血革命といわれる明治維新とフランス革命とを比して語っています。そういわれてみると日本は不思議な国です。受験用歴史で794年「鳴くよウグイス平安京」と学んだ以後、1200年のうち600年間平和が維持され、近代国家への生まれ変わりもほとんど血を流していない。なにしろ全国270余の武装国家が無血で軍備を解いているのですから日本以外の国のひとが聞いたら驚嘆の出来事に違いありません。
 現今の憲法九条は、敗戦時に戦勝国アメリカからから押し付けられた偽りのもの、日本人の日本人による憲法を、という論も一理あるのでしょうが、もしかしたら、1,200年の1/2の長きにわたって、かつ現憲法第九条を奉じて70年、平和の配当を享受してきた日本列島、そして日本人、血を流すことなく、穏やかに徳川政権から明治新政権へと体制変換を成し遂げた、不思議な、眼に見えないものの表現なのかもしれないと思うのです。
 著者はこの眼に見えないものを「パクス・ヤポニカ」といっています。「パクス・ヤポニカ」は「パクス・ロマーナ」「パックス・ブリタニカ」「パクス・アメリカ」の「戦争と平和」という相対的平和主義や安倍政権(今の日本のリーダー層、権力者層)の標榜する「積極的平和主義」でもない「絶対平和主義」というべきものではないかと思います。
 日本の歴史の深層の、強い歴史「パクス・ヤポニカ」はどうやってつくられたのか、この激変のとき、後で後悔しないためにも、ひととき、著者の語りに耳を預け頭を冷やし、日本文明の不思議に思いを致してみるのはいかがでしょう。まずは書店の店頭で立ち読みをしてみてください。今は神になって、受験生の守護神になっている菅原道真公を祀る全国の天神様も、宮崎駿監督の映画「もののけ姫」のテーマも、この「パクス・ヤポニカ」に深く関わっているのですから。

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