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2017/10/29

絵本「100万回生きた猫」が教えてくれる「お客様第一主義」

書名「100万回生きた猫」

著者 佐野洋子
出版社 講談社
   <選び・選ばれる関係>
20171028100  

.コペルニクス的転回

 

「顧客満足」とか「お客様第一主義」を標榜してはいるものの、なかなか実現できている企業は少ない。「売る」から「買っていただく」と言葉の上では丁寧になり視点がお客様に移ったようにみえるのだが、言葉が変わっただけで、自己中心的思考の方向は変わっていない。お客様第一主義は自己中心的思考から他者中心的思考へ、天動説から地動説への転換、コペルニクス的転回、質的転換なのだ。太陽とまでとはいわないが、せめて月面に立って地球を見るという立ち位置の転換なのだ。絵本「100万回生きた猫」はその質的転換を教えてくれている。 

.輪廻転生の意味するところ
 佐野洋子著「100万回生きた猫」は、1977年出版以来40年余のロングセラーだ。多くの家庭で、愛児が幼稚園へ通う頃、気がつくと一冊の存在がある。主人公“とらねこ”は飼い主に愛されては死に、生まれ変わって又愛されては死ぬ、という輪廻転生を100万回も繰り返す。過去100万人の飼い主は、主人公“とらねこ”に精一杯の愛情を注ぐのだが、本人はちっとも飼い主を好きになれないまま、生と死の輪廻転生を繰り返していく。とうとう飼い主も愛想を尽かしたのか、愛してくれる飼い主のいない野良猫に生まれ変わってしまう。「愛される生」の繰り返しだ。

 飼い主を持たない野良猫に生まれ変わると、今度は次から次へとメス猫が好物の魚や肉のプレゼントを持って寄ってきてプロポーズをしてくる。“とらねこ”は自慢げに「おれは、100万回もしんだんだぜ。いまさらおっかしくって!」と相手にしない。“とらねこ”は極めて自己中心的な性格を持った猫だったのだ。しばらくすると、こちらを見向きもしない白猫がいるのに気がつく。今度はこのまったく自分に関心を示さないメス猫の存在が気になり、メス猫の関心を引き寄せようと苦心惨憺、ようやく仲良くなり、子供を沢山もうけて、幸せな生活を過ごすようになった。しかし、幸せとは長く続かないもの、今度はその愛する白猫が先に死んでしまう、悲しみに暮れる“とらねこ”は、その悲しみの中で、初めて、自分の悲しみを通して、過去の100万人の飼い主の悲しみを身をもって知ることになる。まさに「愚者は体験に学ぶ」だ。そしてしばらく生きた後、自分も愛する白猫の傍らで死に、二度と生まれかわることはなかった。というお話だ。輪廻転生とは死後生まれ変わるという意味ではなく、「もっと、もっと」を繰り返す渇愛の生き方のことだ。

.「愛される」から「愛する」へ

 お客様第一主義を標榜する企業で、しばしば耳にするのが、「お客様に愛される店作り」「信頼される会社になりましょう」だ。まさに絵本の主人公の“とらねこ”と同じ自己中心的思考の一杯の標語だ。万人から愛されたいと思い、万人から愛されても、自分はその相手を愛することはできないのだ。この“とらねこ”の過去の愛は、自利の愛、愛されても、愛されても渇きが増していく。「100万回愛されて100万回死ぬ」これは仏教的には渇愛、地獄を生きる愛なのだ。

 まさに「愛される店作り」とはこの渇愛の表現だ。そして「自分は別にして、お客様第一主義」だから、つまるところ「自分第一、お客様第二」なのだ。

 ところが白猫に出会って「一回愛して、一回死んだ」、この白猫と“とらねこ”の愛、これこそ主体的な愛。真の「お客様第一主義」、「お客様を愛する店作り」「お客様を信頼する会社になる」ことなのだ。となると“とら猫”が白猫を自ら選んだように、まずお客様を選ぶことが先になる。そこに主体性が生まれ、己れが選んだお客様のイメージに絞り込んだプライシング、品揃へ、品質、サービスが具体的にイメージできるようになる。まず、第一に主体的にお客様を選び、その選んだお客様に選ばれるというツーステップを踏まないと真のお客様第一主義は生まれない。

 100万回死んで100万回生まれるという輪廻転生の末に真の愛に気づいたのだから、又次の白猫を愛することができるはずだ、とか白猫の後を追ったのかといった下世話の結末ではないのだ。輪廻転生とは、本当に死後の世界があって、現世と死後の世界を転生するということではなく、「この世とあの世」、「娑婆と冥土」、「地獄と天国」「此岸と彼岸」といった二つの世界は、不一不ニ(一つではないが二つでもない)鈴木大拙が晩年に紡いだ大乗仏教の真理、「即非の論理」、西田幾多郎が西田哲学として残してくれた「絶対矛盾的自己同一」なのだ。人は皆、日々この二つの世界の間を振り子のように揺れ惑いながら生きているということなのだ。さあ書店で絵本を手にして確かめていただきたい。「選び、選ばれる関係づくり」とは。

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