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2020/01/02

書名「身銭を切れ」

書名「身銭を切れ」
著者 ナシーム・ニコラス・タレブ
出版社 ダイヤモンド社

Photo_20200102113201 原題は「SKIN IN THE GAME」そして日本語の書名は「身銭を切れ」とても語感がいい。そして帯には「『リスクを生きる』人だけが知っている人生の本質」とあります。著者は「ブラックスワン」のタレブです。これだけでもうレジへ直行です。
「犬も歩けば棒に当たる」、これだから都心の大型書店で店頭を当てもなく歩くのは面白い、アマゾンの店頭では味わえない醍醐味です。
 原題を拙い己れの英語力で直訳すると「ゲーム(人生)に肌を晒す」でしょうか。雪山を歩いているとき露出した頬を刺す風、凍える指先の感覚でしょうか。確かにこのときは「生きている!」と実感する刹那です。さてそれを「身銭を切れ」と訳すとは。
 経営用語としても「リスクテイキング」という言葉が気軽に企業人の口から放たれるのを耳にします。「リスクを取る」というときの「リスク」とは何なのでしょうか。一方で「責任を取る」ともいいます。しかし「取る」というのは現在の行為、現在の行為の結果は未来が来ないとわかりません。未来の結果を”今ここ”で取るというのはどういうこのなのでしょうか。この現在と未来の間に不確実性という想像を超える非対称があります。この想像を超える非対称な未来へ向かって”今ここ”生きる心構えを「身銭を切れ」というのでしょうか。
 童話「星の王子様」にもこの「身銭を切れ」の寓意があります。王子様が自分の星を離れ「何か?」を求めて地球にやってきて、砂漠で狐に出遭うシーンです。王子様が「友達を探している」というと狐は「それなら僕を懐かせればいいんだ」といいます。懐かせるとは、絆を結ぶこと、自分にとって世界にたった一匹のかけがえのない狐にすることだというのです。それなら自分の星に残してきた我がままで高慢ちきな一輪の赤いバラの花は既に友達だったのだと気づきます。
 たまたま飛来した種子に水をやり風を防ぎ大切に育てて、やっと咲いた一輪の赤いバラ。王子様は己れが「身銭を切って」いたことを狐に出逢って気づくのです。
 童話「100万回生きたねこ」にもタレブのいう「身銭を切る」生き方が描かれています。その書き出しには「100万年も死なないねこがいました。100万回も死んで、100万回も生きたのです。りっぱなとらねこでした。100万人の人が、そのねこをかわいがり、100万人の人が、そのねこが死んだとき泣きました。ねこは、一回も泣きませんでした。」とあります。
 輪廻転生を100万回繰り返しても一回も悲しいと思ったことがないのです。悲しいと思ったことがないということは、100万回愛されても一回もうれしいとも幸せだとも思ったことがなかったのでしょう。
 100万と1回目に生まれ変わったとき、愛してくれる人はいませんでした。しばらくして、自分が愛する白ねこを見つけ、とらねこはその「白いねこといっしょに、いつまでも生きていたいと思いました。」でも今度はその白いねこが先に死んでしまいます。とらねこは100万回も泣いて悲しんでそして死ぬのですが、二度と転生することはなかった、という結末です。
 「愛されるねこから愛するねこ」へ、「身銭を切らない生き方」から主体的に「自ずから愛する生き方」へ、という「身銭を切る生き方」への転換が「不確実で予測不可能な世界で私たちがとるべき『生き方』」ではないか、と著者タレブは読者に問いかけています。
 本文中には「特定の種類の爆発的リスクを隠して安定した儲けをあげ、教科書のなかでしか成り立たない学術的なリスク・モデルを使い(学者はリスクについて無知も同然なので)、いざ銀行が吹っ飛ぶと急に不確実性(目に見えない予測不能なブラック・スワンと、例のものすごく頑固な作家)の話を持ち出してきて、過去の収入はちゃっかりそのまま懐に収める。これこそが私のいうローバート・ルービン取引だ。」(本文P35)ロバート・ルービンとはご存知のゴールドマン・サックスの元会長にして、第70代(1995年~1999年)USA財務長官のことです。
 さらに「身銭を切っていない人間の代表格ともいえる人物・・・・その名も元連邦準備制度理事会議長のベン・バーナンキだ。」(本文P45)。そして第5部には「生きるとはある種のリスクを冒すこと」ともあります。
 「身銭を切れ」、安倍・黒田マジックの賞味期限切れが囁かれ、新しい時代への対応が喫緊の課題になっている日本企業、日本人には令和初の新春に好適なキーワードかもしれません。

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